3.まとめ
本調査で、青森県の事業所の労働者における「抑うつ度」が他県の調査結果と比較
して高かったことが明らかになった。また、自殺について「ときどき」〜「ほとんど
いつも」考える者が男女とも8-10%あり、なかでも「ほとんどいつも」考える者が、
男性で1.9%(実数で90人)、女性で1.1%(実数で37人)あった。これらの結果は、青
森県下事業所におけるメンタルヘルス問題の緊急性と重要性を示すものである。とく
に、ハイリスクの労働者に対する対策が急がれなければならない。しかし、このよう
な実情に反し、青森県の事業所における、メンタルヘルス対策の取組み率は約3分の
1しかなかった。
メンタルヘルス対策の取組みを行っている事業所のほとんど(74%)が「効果あり」
と評価しているにもかかわらず、メンタルヘルス対策を行っていない事業所の46%は
その必要性を認めつつ、「取組み方が分からない」、「専門スタッフがいない」との
理由で取り組んでいなかった。また、必要性を「わからない」と答えた事業所も45%と
多かった。以上より、青森県の産業保健分野におけるメンタルヘルス対策の向上のた
めには、メンタルヘルス対策の重要性と適切な情報の提供、およびその取組みに関す
る適切なサポートが必要であると考えられた。
また、メンタルヘルス対策は、小さな事業所ほどとられていないことから、小さな
事業所における効率的なメンタルヘルス対策の方法論の開発(工夫)が課題であると
考えられた。
一方、抑うつ度と希死念慮を高める要因が明らかになった。すなわち、「未婚」、
「一人暮らし」、「少ない家族数(1人)」、「不眠」、「医療施設に通院中」、「日
常生活・仕事で対人関係の悩み・ストレスの多さ」、「健康の問題を抱えている」、
「上司・職場の同僚・配偶者・家族・友人との会話・信頼関係が十分でない」、「仕
事・家族・家庭生活に対する低い満足度」、「ものごとを前向きに考える性格でない
」、「気分転換ができない」、「趣味が少ない」、「文化活動をすることが少ない」
、「経済的な問題がある(特に「失業」、「リストラ」を受けた者)」、などである。
このような、職場、地域、家庭におけるさまざまな問題点が労働者の抑うつ度と複雑
に関与しあっていることが明らかになった。職域のメンタルヘルス対策が、総合的に
、多分野の連携で行われるべき必要性が示されたと言える。
最後に、アンケートの最後の自由記載欄(こころの健康づくりについての提案)の
記載内容をまとめてみた。
内容は大きく分けて、「職場」、「家族」、「地域社会」、「自分自身」、の四つ
に分類された。
(1)「職場」
職場環境の悪さをストレスの原因として挙げる者が多く、
@給料が安い
A仕事内容が過酷である(休みが少ない)
B人間関係が悪い(経営者・上司の無理解と同僚との関係の悪さ)
Cメンタルヘルス対策の不備
がその主なものであった。また、具体的提案として、
@積極的に人間関係の改善を図ること(話し合える仲間を作る、職場での声掛
け・挨拶をする、職場内の明るさ・笑い・リラックスを保つ)
A仕事場でのバックグラウンドミュージック
Bラジオ体操
C社内旅行
Dメンタルヘルスに対するセミナー、講演の開催
E年に1、2度文化、趣味の発表の場をもつ
などがあった。
(2)「家族」
第一に、良き相談相手としての配偶者等家族の存在の大きさが挙げられた。また
、家族内の諸問題(家族の病気、夫のリストラ、同居老人の問題など)もストレス
の大きな原因となっていた。
(3)「地域社会」
地域社会に対する不満と要望は以下のようであった。
@公共施設(公園、美術館など)の充実と活用の枠の拡大
A孤独にならないような地域・職場ぐるみの応援システムを作る(近所つきあ
い、サークル、ボランティアなど)
B県内数カ所に気軽に相談できる労働問題等に関する相談所等を設置
E高齢者、若者に雇用の場を与える
(4)「自分自身」
自分自身の問題であるが、その多くはストレスに対する対処方法であった。すな
わち、
@内面の変革(職場、家庭、地域社会において、思いやりを持ち、明るく笑い
のある時間を持ち、くよくよしないで感謝の気持ちを忘れずに前向きに考え
ていくなど)
Aストレス発散のために、職場外での充実した時間を作ること(ペット、スポ
ーツ、散歩、音楽、映画、ボランティア、旅、釣り、園芸、カラオケ、山菜
取り、ダンス、飲酒など)
B健康の保持増進(不眠、更年期、肩こり、腰痛、頭痛などの解決)など
であった。
以上をまとめると、抑うつ度を高める原因としては、「経済・労働条件などの職場
環境の悪さ」「上司・同僚・家族などとの人間関係の悪さ」が二大要因であり、その
対策として、「職場・地域におけるメンタルヘルス対策の構築」「何でも話し合える
仲間(できれば上司)、家族の存在」「自分自身の内面的変革(前向きな考え方、明
るさなど)」「仕事以外で打ち込める趣味」などが挙げられていた。
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