産業医コラム~産業医のスキルアップを目指して~
産業医活動の特徴として、主治医としてなら患者の立場に100%寄り添う必要がありますが、産業医としてならば患者の立場に50%、会社の立場に50%寄り添う必要があります。ということは会社の仕組みについても知る必要があります。私は今まで産業医の研修会をいくつか企画してきましたが、なかなかその辺が伝わらないという思いがありました。そこでそういった会社の都合に配慮するということについてこのコラムでは取り上げていきたいと思います。 弘前・黒石地域産業保健センター 登録産業医 須藤 武行 |
第十七回【職場内復職プログラムについて】
復職前に終日の労働に耐えうるか、または、復職後うまく仕事についていけるかを確認するいわばリワークプログラムです。就労上の負荷が取れて、能力的に問題のない人にはとっては、それにあまり時間をかける必要はないのでしょうが、病気がまだ十分には回復していないのに就労可の診断書を提出してきた人や、もともと適応能力が低めの人でその能力を高めていく必要がある人には、有用な方法だと思います。本人や職場にとって、本人の就労能力の確認や、就労上必要とされていることのレベル確認に有用と思います。社内で工夫してみてください。
このコラムは短いものなので理解をするのに誤解を招く可能性があると思います。もしよろしければ、以前のバックナンバーなども参考にしていただければ良いかと思います。
皆さんからのご意見ご感想ご質問などもお待ちしております。
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第一回【復職時の負荷の軽減について】
ストレスによるものであるにしろ、病気や怪我によるものであるにしろ、長期の休養後の復職の時には当面数ヶ月の就労上の配慮をすることが必要となります。会社によっては半日勤務が認められているところと、終日勤務が復職の条件となるところがあります。終日勤務が求められる会社でも、就労上の配慮が必要となります。通常は復職の当面一か月間は、残業なし、交代勤務なし等のフル措置、つまり本人にとって一番負荷の少ない状態、での経過観察が適当と思われます。さらに仕事の負荷の面でも通常の負荷の2-3割減、あるいは5割減程度の負荷で様子を見ることとなると思います。一か月後に適応の状態を見てそれらの措置を徐々に外していくこととなると思います。復職時に、配置換えするのがいいのか、ものと仕事に戻るのがいいのかについては、また別の機会の述べたいと思います。
第二回【復職時の就労場所について】
復職時の就労場所については原則としては以前働いていた場所に戻るのが良いのでしょうが、パワハラによる場合や適応障害による休職等の場合には、本人がその職場に戻ることに苦手意識を持っている場合があり、配置換えを検討する必要があります。なるべく本人の意向に沿うようにするのが良いのでしょうが、職場によってはそのような適当な場所が提供できない場合もあります。そのような場合には、本人や職場側、産業医を交えての調整が必要となります。
第三回【対象者への配慮と職場の平等について】
会社内では、雇用条件に大きな差がない限り、同じ役職にある全ての人が平等な労働条件で働くということが原則であると思います。本人に対しての配慮がそのような平等性を欠く要因となることがあります。そのようなことにも配慮する必要があると思います。就業例えば多くの部門を持つ大きな会社の場合、職場内のキャリア形成の過程で、単純な事務作業だけではなく営業職などの苦手意識を持ちやすい仕事を経験する必要が生じる場合があります。そのような場合には、就労上の措置を決めるうえで、その職場に当たったことが大きなストレス因となっている場合であっても、単純に職場を変更するのではなくストレスと感じるノルマを大きく減じるなど、会社全体への配慮上その場に留まってもらう配慮をする必要がある場合があります。
第四回【主治医診断書の扱いについて】
休職の場合には本人が持ってきた主治医の診断書に基づいて判断するので良いのでしょうが、主治医は会社ではなく患者に寄り添っているので明らかに復職に適さない場合でも就労可能の診断書を書いて持ってくる場合があります。そのような場合には、復職は妨げることはできませんが仕事の負荷の軽減や配置換えで職場が抱えるリスクを軽減する必要があります。こういったことも本人・職場・産業医が顔を突き合わせて調整する必要があると思います。
第五回【参考となる書籍等について】
先に述べたように産業医は患者の立場に50%、会社の立場に50%寄り添う必要があります。そのため、会社がどのような仕組みで動いているかを知る必要があります。職場では雇用契約や就業規則などによって働き方が定められています。その内容は会社ごとに多少バラエティがあったりします。このような知識を得るにあたって、私は次のような本を参考にしました。
・基本と実務がぜんぶ身につく 人事労務管理入門塾
林 浩二(著) 労務行政
・世界で戦えるビジネススキル MBAの超基本 見るだけノート
嶋田 毅 (監修) 宝島社
また、そのような考え方をもあるのだなあということを知る、参考として次のような方々の書籍などが参考となると思います。
・沢渡あまねさんの、〇〇の問題地図シリーズなど。
・河合薫さんの本など。
またインターネットのホームページとしては、次のようなものを私は参考にしています。
・「ITmediaビジネスonline」
番組としては、BS7チャンネル、テレ東の
・ガイアの夜明け など
(労働者目線で見るとまた見え方が違うと思います)
第六回【適応障害に対しての考え方】
適応障害は、本人の能力と仕事の負荷のアンバランスで生じます。仕事での負荷が大きくて、労働者の誰しもが不適応を起こす状態なら理解しやすいですが、もともと本人側の能力が低かった場合の対応は、工夫が必要です。もともと適応能力があって、一時的に不調となった方では、もともとの能力までの回復が期待できます。ただ、もともと能力の低かった人に対しては、基本的には、雇ってしまった以上、本人に寄り添う必要があるのですが、適応が徐々に向上するような就労上の工夫が必要となります。これも、本人・職場・産業医が顔を突き合わせて調整する必要があると思います。
第七回【話の裏を取ることについて】
本人に復職後の状況や調子を聞いても、「うまくやっています」といった風に、あっさり答えることがあります。それを言葉としてはその通りに受け取るのですが、事前に現場での適応の状況を確かめておく必要があると思います。安全衛生担当の人に、事前に上司等の見解を聞いておいてもらうのです。本人の病院受診の際にも、主治医には職場での状況が伝わっていないことが多いので、場合によっては「『自分としては調子が良いのだけれど、職場としてはそうは思ってくれていないみたいです』とか、伝えてくださいね」とお願いすることもあります。
第八回【人事との連携について】
適応障害にしろ、うつ病によるものにしろ、2次的に「会社の対応が悪い」「会社は病気のことを理解してくれない」など、本人と会社との関係がこじれてくる場合があります。こういった場合には、安全衛生部門だけでの対応でなく、人事を含めた就労規則や雇用契約、福利厚生面での対応やその限界など、人事担当部門との連携した対応が必要となることがあります。
第九回【家族との連携について】
本人は一応成人でしょうから、親や家族の出る幕は少ない方が良いのでしょうが、自殺等の危険があるとか、強制的な入院治療が必要な場合などには、家族との連携を取ることが必要になると思います。
雇用上、退職を切り出す場合なども、家族にも事情説明をしておいた方が良い場合があります。
第十回【対象者受診時の同行について】
以前にも述べたように、本人が主治医に職場でのことを伝えていない、職場での困り具合が治療者側に伝わっていない、ことがしばしばあります。会社側としてはそこを伝えたいのでしょうが、基本的には、治療とは本人と治療者の間で成り立っています。もし仮に、同行受診して職場での状況を伝えたいと思っても、本人の意向なり同意は得るべきでしょう。それは、文面で主治医の意見を求める時も同様だと思います。本人の同意が得られていれば、主治医からの忌憚のない返答が得られるでしょうし、そうでなければ通り一片の返答とならざるを得ません。
第十一回【昇進うつ病について】
本人が現場で頑張っている人なので、年齢的なこともあるし、昇進させたい、と思うこともあるでしょう。ただ、当人にとってはそういった責任が付与されると重荷に感じて実力を発揮できなくなる場合があります。そういった場合は、会社の昇進システムにもよるのでしょうが、本人が納得すれば、昇進は見送り、他の待遇面で善処する、という方法もあります。これも、本人・職場・産業医が顔を突き合わせて調整する必要があると思います。
第十二回【「自律神経失調症」という診断名について】
仮に本人の病状にうつ状態が想定されていたとしても、「うつ」という病名に引っ張られた対応を取ることを恐れ、「自律神経失調症」という病名を使うことがあります。本人が、診断書提出に際して受け入れやすい、といった事情もあります。会社側・産業医としては、適切に病状を判断し対応を取ることは同じです。そのような事情をご理解いただければ幸いです。
第十三回【ハラスメント事案への対応について】
パワハラ、セクハラ、モラハラ、等、ハラスメント事案の対応では加害当事者が自覚がない場合が多く、対応が困難な場合が多いです。大概は、被害者を部署異動させることで対応しますが、「加害者が同じ場所にいて、自分が異動させられるのはおかしい」と被害者から文句を言われることもあります。加害者対応については、さらに上の上司を巻き込んだ対応が必要になることがあります。また、次回述べるような、個別対応だけではない、社内研修等での継続的な対応も必要だと思います。
第十四回【個別対応と、研修等での対応について】
先回述べたように、産業医が対応すべき事案の対応方法として、対象者本人への対応のみならず、社内研修などの普段の啓発が有用なことも多いです。社内研修のありようなどについても、産業医が係わってみるべきだと思います。
第十五回【長時間労働の是正について】
長時間労働者への面談で感じたことは、会社の働き方自体への取り組みや改変に係ることが必要だなあということです。産業医が係わるような事案、特にその職場に目立って多い事案には、そのような理由が隠れていることが良くあります。そこに係ることは、その会社が大きく成長するステップともなると思います。是非、そのような意見の言える産業医となりましょう。
第十六回【長期休暇社員への対応について】
うつ病などの事案では、長期の休暇や短期の出社を繰り返し、結果として長い経過となる場合があります。本人は働き続けたいのでしょうが、会社側としては他の職員の手前もあって、解雇せざるを得ない場合があります。主治医の判断を聞いてみることも大切でしょうが、私は基本、傷病手当金が切れるような期間や障害年金がもらえるような期間(初診から1年6カ月が目安。ただ、今の病状が障害に該当する程度でなければならない)を経た場合には、解雇としても致しかたないと考えています。また、本人が望むならば、障碍者雇用とした方が、就労上の配慮がしやすくなる場合があります。